ヨルダンの国民食マンサフの伝説

しばらく更新が滞ってしまいました。
6月1日(2018年)に日本へ帰国してしまったのでこれからは回顧録(?)になります。

ヨルダンの食について触れていなかったと思うのでヨルダンの国民食である「マンサフ」について書きます。

 

マンサフとは何か?
お米を黄色い色に炊き、デカい羊肉の塊が入ったヨーグルトスープをかけて食べる料理です。

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このスープ、羊か山羊のミルクを発酵させたものから出来ていて非常に臭みが強く酸味があるので好みが分かれます。

僕はこのスープの味も好きだし羊肉がほろほろしていてとてもおいしいので大好きでした。
タクシーの運転手と話しているとよく「マンサフは食べた?気に入った?」と訊かれます。「もちろん!マンサフ好きですよ!」と答えると運転手はめちゃくちゃ笑顔になります。日本人が外国人に納豆は食べられるかと訊くようなものだと思います。

 


マンサフの言い伝え
マンサフの起源についての言い伝えをヨルダン人から聞いたのでここに書きます。

ヨルダン中部にカラクという都市があります。
カラクには十字軍が建設した砦があり、観光名所になっています。(写真)

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高校世界史でも登場するサラディンサラーフッディーン)がこの砦を攻略して一帯を十字軍の支配から解放するのですがそれはまた別の話。

十字軍の前は、この土地に住んでいたムアーブ人が神殿として使っていた場所でした。

ムアーブ人は偶像崇拝をする人々でしたが、ユダヤ人と協定を結んでおり平和に暮らしていました。

しかしある時ユダヤ人側がその協定を破ってしまいました。

そこで怒ったムアーブ人の王はムアーブの全家庭に「ヨーグルトと肉を一緒に使った料理を考案するように」とお触れを出しました。ヨーグルトと肉を一緒に料理することはユダヤ教では禁忌とされているのです。

こうしてマンサフというものが生み出されました。

ユダヤ人はこれに怒り、それ以来ユダヤ人とムアーブ人が同じ食事を囲むことはなくなりました。

戦争をせずに相手を怒らせる非常に賢い方法です。

 

 

※カラク出身の友人から聞いた話です。マンサフの起源に関してはこの話しか聞いたことがないのですがこれが絶対に真実だとは言い切れないのではないかとも思います。

お前は甘い

日本語を勉強しているヨルダン人Aと日本語を教えているヨルダン人Bがアラビア語で話していた内容をざっくり和訳しました。方言の会話だったのであまり聞き取れず多分に推測を交えていますが大体こんな感じの内容のはずです。

 

A「オマエってどういう意味でしたっけ?」
B「あなたという意味だよ。ただし失礼な言葉だから使わないように」
A「あれ?甘いという意味では?」
B「うん、確かに昔は良い意味の言葉だったんだけど今では失礼な意味に変わったんだ。あ、でも仲の良い友人同士や夫婦なら使えるよ」

 

さて、さすがに日本語を教えているだけあってBの「オマエ」という言葉の解説は完璧なんですが、なんだか会話がかみ合っていません。
このすれ違いの理由はアラビア語話者の日本語学習者に特有の問題から来ていると考えられます。

 

 

まず、Aは「オマエ」が「甘い」という意味だと勘違いしています。
なぜか。そもそもAは「お前」と「甘い」の発音を混同しているのです。
日本語母語話者にとっては全然違う言葉ですが、アラビア語母語話者にとってはよく似た言葉です。
アラビア語では母音は3種類(a, i, u )しか区別しません。eやoの発音もあるにはありますが、eはiと、oはuと区別されないのです。
そういうわけで、「オマエ」は「オマイ」と区別がつきにくくなります。

ではなぜ語頭のa とo が混同されるのか。
これは、断定できないのですが二つの可能性が考えられます。

 

仮説1:
ひらがなの「あ」と「お」が似ているから。
この2つのひらがなは日本語学習者にとって非常に間違えやすい文字になっています。
ひらがなを読むときに読み違えた可能性は高いです。

仮説2:
アラビア語で表記すると、a とo が区別されない場合があるから。
子音なしの、単独の短母音としてはa は أَ (u)は أُ と表記されます。上に乗っている短い線やカールしてるのは母音記号で、通常は書かれません。つまり母音記号を振らない限りはa とo は区別がつかないのです。
もし日本語学習者が発音をメモするときにアラビア文字を使った場合(アラビア文字は他言語を表記するのに非常に不便なのでその可能性は低いですが)、「あ」と「お」の発音を混同するのは必至でしょう。

また、日本語を覚える際に無意識にアラビア文字を頭の中で参照している、という可能性もあるのではないでしょうか。

 

 

そして二つ目の問題。
Aが「甘いという意味では?」と言ったのに対して、Bは「うん、確かに昔は良い意味の言葉だったんだけど…」と返していて、ここでも会話がかみ合っていません。
Aが言った「甘い」はヨルダン方言のحلو (ヘルゥ)という単語です。このحلوとはどういう意味なのか。東京外国語大学言語モジュールシリアのアラビア語語彙モジュールで検索しました。(シリア方言とヨルダン方言はよく似ている)


حلو
(1)甘い
(2)きれい
(3)いい

 

ということで、Aは「甘いという意味では?」と訊いたのに、Bは「良い意味では?」という風に訊かれたと解釈したのです。

 

このように、日本語の文字の紛らわしさ、アラビア語の文字体系の問題、ヨルダン方言の多義語など様々な要因が積み重なってすれ違いが生じたことが見て取れました。
第二言語学習者がどのような間違いを犯すか、というところに注目すると両方の言語の特徴が見えてきて面白いのではないかと思います。

 

最後に、写真がないとさびしいので砂漠の中の遺跡アムラ城の写真を載せておきます。

スターウォーズのタトゥイーンみたいですよね。

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アラビア書道2

前回に引き続き、アラビア書道を紹介します。

サムネは書道の練習に使った紙です。

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د(ダール:d)

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縦に引いた補助線に寄せていくように斜めに線を引きます。

長さは点3つ分くらい。

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最初の線の終わりから左に向けて横線を引き、最後に少し跳ね上げます。

横線の長さも大体点3つ分くらいです。

 

ح(ハー:ため息や、ガラスを曇らすために息を吹きかけるような音)

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左から右に、なめらかなカーブを描くように線を引きます。

クラスメイトは眉毛みたいだねって言ってました。

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最初の線の終わりから半円を書きます。

基準線が円の上から3分の2の位置に来るようにします。

どうしてもうまく書けなくて歪んだ半円になってしまいました。

 

今回は以上2文字の紹介でした。

 

アラビア書道、始めました

アラビア書道、始めました

ヨルダン大学語学センターの放課後プログラムの一環として週一でアラビア書道のクラスに参加しています。

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これは先生が書いたお手本で、「私はヨルダン大学で勉強しています」と書いてあります。

アラビア書道の書体にもさまざまな種類がありますが、これから僕が学ぶのは「ナスヒー体」と呼ばれる最も基本的な書体です。

 

準備

まずはペン。

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アラブの国の書店などでقلم الخط العربي ありますか?ときいて下さい。僕が先生に指定されたのは30という番号で表される太さのペンです。なんと日本製でした。

アラブの書店に行けない人はマジックなど、先が角ばっているペンを使っても書けると思います。

 

続いて紙。

なんでもいいです。本格的な書道なら特別な紙があるのでしょうが、練習なら何でもいいです。

ただし紙の置き方が日本の書道と違っていて、右上が奥になるように45度傾けて置きます。やっぱり線を右から左に引くのは難しいのでしょうか。普通に手書きするときでも紙を傾ける人はたまにいます。

 

文字ごとに解説(第一弾)

※これ以降、出てくる文字の写真はアラビア書道初心者たる僕が書いたものになります。

 

まずはアラビア語アルファベットの第一の文字、アリフ。

左側の縦にまっすぐな線がそれです。

これは母音a,i,uのいずれか、あるいはaの長母音を表します。

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右のごちゃごちゃしたのは何なのかこれから説明します。

アラビア書道の基本は点と線です。(当たり前ですが)

点は太さと長さが同じになるように、つまりひし形になるように書きます。

線は、点から始めてかすれたり太さが変わったりしないように引きます。

 

文字の大きさは、点を基準にして決まります。

アリフなら点7個分の長さで書きます。

また、垂直な線から点半分だけ左にずらした位置からスタートしてやや傾けて書きます。

 

続いてب(バー:b)ت(タ―:t)ث(サー:th)に共通する舟形の部分を書きます。

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下の方を見てください。

まずは①の位置に上述の点を書きます。

赤で囲ってある部分にひし形の名残が見えると思います。

そしてペン先の角度を変えないようにしながら方向転換して、30度よりやや浅いくらいの角度で基準線に向けて下ろします。(②)

×印の位置で基準線と交わったら上に向かい、最初の点と同じくらいの高さまで跳ね上げます。

こうしてできる舟形は、中に点が4つ入るくらいの大きさにします。

 

以上、最初の2文字を解説するだけで結構時間がかかってしまいました。

これからちょくちょく文字を追加していく予定ですが、この調子でいくとどれだけ時間がかかるか…

ともあれ第一弾、読んでくださりありがとうございました。

ダウンタウン散歩

最近かなり引きこもり気味だったので一念発起して散歩に出かけました。

アンマンのダウンタウンにあるローマ劇場の遺跡です。

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以前留学していた先輩にお勧めしていただいたアハリーヤという書店にも行きました。

 

3冊の本を買いました。

1冊目

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『日本の教育』

タクシーとかに乗って日本人ですっていうと「日本人って頭いいよね!」と決まって言われるのでアラブ人の目に日本の教育がどういう風に写っているのか気になって買ってみました。

 

2冊目

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小川洋子『完璧な病室』アラビア語

アラビア語タイトルの直訳:病気の男のための理想的な部屋

 

日本の小説をアラビア語で読んで、日本語版と比べてみたら面白いかなと思って買ってみました。ほんとは電子書籍で日本語版を合わせて買いたかったのですが、この書店に売ってる本はどれも電子書籍になってませんでした。

ちなみに他に売ってた日本人作家は三島由紀夫川端康成森鴎外でした。三島由紀夫が最も冊数が多かったです。

三島由紀夫と言えば『金閣寺』とか川端康成と言えば『雪国』とか森鴎外と言えば『舞姫』とかいろいろありますがそういうメジャーどころは売ってなくて、原題はなんだろ?と考え込んでしまうようなものばかりでした。なぜか知らないですが。

 

3冊目

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この絵!!

この後ろ姿!!

見覚えないですか!?(僕と同じ部活の人に限る)

部活の合宿先に飾られてる絵ではないですか!?

まさかヨルダンで見つけるなんて!!

なつかしさに駆られて何の本かよくわかってないけど買いました。

 

書店での買い物は以上です。

お読みいただきありがとうございました。

店員ににらまれながら詩集を買った話

こんにちは


僕は詩を読むのが好きです。
詩ってあんまり話題に上らない気がしますけど好きな人いますか?
もしいたらお勧めの詩人、詩集など教えていただけたら嬉しいです。詩が好きだとは言うもののたくさん読んでるわけでもないし知識もないのでもっといろいろな詩に触れてみたいのです。


そういうわけで僕はヨルダンに留学するにあたって地元の書店で詩集を買うのを楽しみにしていました。


まず訪れたのはヨルダン大学北門を出てひたすら右に歩いたところにある白い大きな建物の中にある書店です。

この書店、いろいろとマニアックな本が置いてあって品ぞろえはいい感じなんですが、店員さんがなかなか厄介な人でした。

僕が店に入ると奥から出てきて「どうぞ」と言って挨拶してくれるのですが、そのままそこに立って監視してくるのです。若い神経質そうな美女が刺すような目で見つめてくるので結構つらい。たぶん万引き防止なんでしょうがそれにしても見つめてくる。
店内にはいろいろなジャンルの興味深い本がたくさんあるし、アラビア語の書名を見て何の本なのか理解するのも時間がかかる。すると貧乏ゆすりが始まる。アラブ音楽の影響を受けているであろうエキゾチックなリズム…

 

ということで非常にいたたまれない気持ちになり変な汗をかき始めたところで見つけた詩集がこちら

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選んだ理由は、「表紙に詩と書いてあるから」です!
それ以上考える余裕なんてありませんでした。

 

そんな風にして出会ったこの詩集ですが、読み進めるにつれ次第に良い出会いだったと思うようになりました。
書きたかったのはこの詩集の話なのですが、前置きが長くなってもはや本編になってしまったので次回以降にお話します。

 

なお誤解のないように言い添えておきますが、ヨルダンの書店が全部こんな感じというわけではないし、この書店の店員さんを悪く言うつもりもありません。ただ僕が緊張したというだけのことですので、ヨルダンに来たらぜひ寄ってみてください。

意外と似ている!?ヨルダンと日本の幼児語

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ある日、アラブ人の小さな女の子が車を指さして「シャイヤーヤ、シャイヤーヤ!」と言っているのを見ました。


アラビア語で車は「サイヤーラ」と言いますが、彼女は小さいので「シャイヤーヤ」と言ってしまうのです。
アラビア語と日本語の発音はだいぶ違っていますが小さい子にとってサ行が言いにくくてシャ行になってしまうのは共通のようです。まあ人の発声器官の構造はどの民族も共通なので当然ですね。


そうすると幼児語を研究することによって自然言語一般の音声に関する有益な知見が得られるのではないか、などという壮大な妄想が膨らんだりしますが、そんなことを考えているといつまでも記事にならないので今回は気楽にヨルダン人に教わったアラビア語幼児語をいくつか紹介します。

 

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幼児語についてちょっと調べていたら
『保育内容シリーズー人間関係』(監修:谷田貝公昭、編:細野一郎)
という本を見つけました。Googleブックスのプレビューで内容が一部読めます。この本によれば

一歳を過ぎると、一語発話がはじまる。初語の代表は、「パパ」「ママ」といった、pやmのような子音と母音が結びついた反復語である。これらの音は「唇音」とか「両唇音」とかいわれ、唇を一回閉じてまた開けばよいだけなので発音が簡単である。

とあります。(引用元はこちら)
確かに日本もヨルダンも幼児語は両唇音が多いです。
ちなみにこの本の著者はおそらく音声学の勉強をしていないと思われるので「『唇音』とか『両唇音』とか」などといい加減に書いてありますが、唇音は両唇音より上位のカテゴリで、唇音の中に両唇音と歯唇音が含まれます。歯唇音はfやvなど唇と下の歯を合わせて発する音です。歯唇音は発音がそんなに簡単ではないので幼児語で使われるのは両唇音であるというべきでしょう。
両唇音はmやpなど少ない音しかないので、外国でも幼児語はかぶりやすいと思われます。

 

ヨルダンの幼児語で水のことをンブーというそうですが、日本でも一部水やお茶などのことをオブーと言うことがあるという情報も見かけました。

車の幼児語も、どちらも擬音語から来ているのか良く似ています。

 

こういう風に、日本語と全然違う言語を使う地域でも幼児語は似ているかもしれないので調べてみると面白いんじゃないでしょうか。